半年前・・・クムは、いつものように帳簿をつけ注文のチェックを終え、ウンスが自分に
宛てた書物に目をとおしていた
通渠公司 。
あの計算式を導きだすために書かれた、日付・・・。
クム・・・あなたが上海で・・・いいえ、高麗以外で天門の場所を解明できたら、クム・・・あなたは、天門を潜って未来へ・・・その知識と才能を開花させてほしいの・・・。
ウンスの願いが綴られている。
そして、天門の先が「ソウル」なら・・・ウンスのオフィステルの鍵の暗証番号、銀行のカードの保管場所と暗証番号・・・公共交通の利用方等・・・現代事情が事細かに書かれてあった。
クムが自室へ帰ろうと商館の階段を下りて行くと、テジが待っていた。
テジは、ドンベクからの手紙を読んでいた。
こちらのことは、もうなにも心配することはない。
南部での商売も起動にのった、あとは自分の想いを貫け・・・そう記されている。
己の思うように生きよ・・・父からの伝言だ。
筆をとりテジは、蘇州にいるスンナムに書簡を認めた。
スンナムには、迷惑をかけることになる・・・後のことを頼んでおこうと決めた。
ミンジュとヨンスは、クムを迎えに商館の前に来ていた。
ああ・・やっぱり・・・二階の窓に灯りが見えている。
クムは、なにかに没頭すると時間というものを忘れてしまう。
だから、こうして毎日誰かが、クムを迎えに行くのが日課になっていたのだ。
そうしなければクムは、朝まで机にむかっている。
ミンジュが商館の扉を開けると、テジがまだ仕事をしている・・・灯りが漏れてきた。
扉が開かれた瞬間、ミンジュは、筆を持つテジと目があった。
すると、ミンジュの目にみるみる涙が溢れてきて・・・はらはらとその頬を流れ落ちた。
ミンジュの眼を見つめるテジは、困惑してしっまたのか、苦笑いを浮かべている。
ヨンスには、なぜミンジュが泣いたのか・・・理由を知っていた。
テジが行ってしまう・・・ヨンスの目にも涙が光っていた<
糖尿眼。
上海へ向かう船で何度もみんなで話し会った。
テジは、必ず天門を潜りウンスのところへ行ってしまうだろう・・・。
その時は、笑顔で・・・そう約束していた。
だが、それが現実になろうとしている。
子供達にとってテジは、ウンスが旅立った後、父であり友だった。
優しいテジは、自分達が泣いたらきっと心を痛めるに違いないだから・・・。
二階からクムが降りてくる・・・気配を察した二人は、黙って商館を後にした。
階下に降りたクムは、テジの座る机の前の椅子に腰掛けた。
書簡を封筒にいれながテジは、クムにその視線をおくった。
「大行首。誰かが来てたみたいですね。」
「ヨンスとミンジュがお前を迎えにな・・・。」
黙って帰ってしまったのか・・・。
でも、なぜ黙って帰る・・・こんなことは、一度もなかったのに・・・。
クムにも理解できた・・・テジは・・・。
「大行首・・・ここの天門がどこに繋がっているのか・・・まだわからない。」
「ああ。だが、俺は行くよ。クム・・・決めたんだ。」
クムは、黙って頷いていた。
「お前に・・・天門までついて来てもらいたい。お前一人でいい・・・。」
「はい・・。」
クムが導きだした日時は、明日・・・時間は、あと数時間
減肥食物。
商館からさほど離れていない。
金山神廟として、漢の大司馬霍光が祀られている廟の辺り。
(日本でいう神社のような建物で、明代に大きく改築され清代にさらに改築されて現在は、上海の観光名所の一つになっている。道教の施設の一つ)
クムには、なぜか確信があった。
天門の先は、ソウル・・・そこからは、どこに飛ばされるのか・・・。
テジと金山神廟まで・・・いろいろ話しながらゆっくりと歩いた。
クムは、テジに頼みごとをした。
ウンスの歴史の記憶の抜けた箇所を調べてほしい。
天門は、往復が可能だから・・・これには、確信がある。
そこからは、自分の信念のみが頼り。
テジは、いつもよりお喋りになっているクムを優しい笑顔でみていた。
クムに言われてテジの懐には、小さな高麗青磁の水差しが布に包まれ入っていた。
古物商で現金に換えろ・・・ウンスが残した書に書かれていたそうだ。
ウンスの書いた(現代事情)を事細かに何度も何度も話すクムにテジは、クムの手をそっと握った。
手をつなぎ歩く二人は、まるで仲のいい親子のようにみえた。
歩きながらクムは、泣いていた。
泣きながら、話し続けた。